(Masahide Kamio)(Masahide Kamio)

 5月10日、衝撃的なニュースが舞い込んだ。スーパーGTに参戦するミシュランが、2023年シーズンをもってGT500クラスでのタイヤ供給活動を休止すると発表したのだ。

 ミシュランはスーパーGTの前身である全日本GT選手権時代からタイヤ供給をスタートし、GT500で通算4度のシリーズタイトルを獲得した実績を持つ。現在は日産陣営の3号車Niterra MOTUL Z、23号車MOTUL AUTECH Zの2台にタイヤを供給しているが、昨シーズンは2勝を挙げた3号車がランキング2位に。今季も開幕戦でワンツーを飾り、選手権をリードするなど上り調子で、2015年以来久々のタイトルに手が届きそうな状況だけに、活動休止のニュースは驚きをもって迎えられた。

 日本ミシュランタイヤが発表したプレスリリースには休止の理由について「ミシュラングループがレースサポート体制を再考する中で決定された」と記されていたが、具体的にはどんな背景があったのか? モータースポーツダイレクターの小田島広明氏に話を聞いた。

■タイヤ開発で求められる“価値”の変化

 ミシュランはこれまで、今や世界的にも珍しいマルチメイクによるタイヤ開発競争が繰り広げられる日本のスーパーGTを、開発の“ラボラトリー(実験室)”として位置付け、そこで得られた技術や知見をWEC(世界耐久選手権)などの他カテゴリーに流用・活用してきた。しかし近年の社会情勢の変化もあり、求められる技術や価値が「サステナブル」な方向に変化してきたことが休止の大きな理由のようだ。

「我々はGT500というカテゴリーをタイヤ開発のラボラトリーとして活用してきました。今もこれからも、GT500というカテゴリーのラボとしての価値や競争力に変わりはないと思います。依然として高い技術を要求されるチャレンジングなカテゴリーだと思います」

「ただ、そこで得られた結果をどう活用するかが、モータースポーツ界全体として変化してきました」

「他メーカーと比較して“速さ”を追求することよりも、性能を維持していかにマイレージを伸ばせるかや、サステナブルな素材を活用することなどがターゲットになってきています。スーパーGTにはもちろん耐久性の要素もありますが、700km、800km、1000kmを1セットで走ろうとするカテゴリーではないですからね」

「もちろんスポーツとしてのGT500の魅力は変わらないですが、ラボとして位置付けをしている以上、得られたものをどう使うかという部分が変わってしまっては、そこに居続ける価値が下がってしまいます。これがGT500の活動を休止する一番の理由です」

「また、(タイヤメーカー間の)競争によって得られる価値として、レースで勝つことによって得られるブランド力がありますが、ミシュラングループは当初からブランド戦略のためだけにスーパーGTを位置付けていません」

 近年、“サステナブル”や“カーボンニュートラル”というワードが声高に叫ばれるようになったが、それはモータースポーツ業界も例外ではなく、スーパーGTを含む国内外のシリーズが様々な環境対策を講じている。そういった中でやはり、タイヤメーカーとしては1kmでも長く走れるタイヤを追求することが優先順位として高くなっているのだ。“世の中の動き”に合わせてのGT500活動休止は、ミシュランも「グループ全体として苦渋の決断」と表現する。

 世界情勢がここ数年で急速に変わる中、「5年前には、このような決定になるとは思っていなかった」と語る小田島氏。ミシュランは拠点のフランスから日本にタイヤを輸送してきている訳だが、コロナ禍やウクライナ情勢を経ての輸送費高騰が何らかの影響を与えたかと問うと、彼は次のように答えた。

「輸送費がかなり高騰しているのは事実ですが、コストの問題をGT500のラボとしての活動(可否)に含めるなら、初めからやらないですよね」

「これらはヨーロッパをベースとする我々が競争を始める時から分かっていることです。(スーパーGTを)やる・やらないという選択が、情勢によって上がったり下がったりする輸送費に左右されることはありません」

■なぜシーズン中5月の発表に?

 ミシュランの今季限りでのGT500活動休止はすなわち、現在ミシュランタイヤを履くNISMO系の2チームが来季から別のタイヤメーカーにスイッチする必要があるということを意味する。ミシュランとしても、2チームのタイヤメーカー移行をスムーズとするために、そして応援するファンに“筋を通す”ためにも、シーズン終了後ではなく、第2戦終了後という早いタイミングでの発表に踏み切ったという。

「ミシュラングループの中でどの活動をどうしていくかという議論は、毎年のように行なわれます。その中でGT500の活動の継続が厳しいという話になったのは、2022年の暮れです」

 小田島氏はそう明かす。

「もちろん、我々が引くということは、供給している2チームは別のタイヤを履かないといけないことになります。そのため、NISMOさんとは少し前の段階から『こういう状況なので一旦休止を考えています』という考えをお伝えしていて、(ミシュランの参戦)継続を含めて色んな可能性を模索しつつ、最終決定まで様々なお話をさせていただきました。ただ最終的にはミシュランの決定を尊重いただく形になりました」

「このタイミングでの発表になったのも、次のタイヤへの移行期間を十分にもっていただくためです」

■GT500休止はF1参戦への布石ではない?

 また、ミシュランがGT500活動休止を発表したタイミングは、奇しくもF1が次期タイヤサプライヤーの入札を行なっていた時期でもあった。そのため、この決定はミシュランのF1復帰への布石ではないか……と推測する声もあった。

 ただ小田島氏は「少なくとも、GT500活動休止の決定に、F1に参戦するしないといった議論は全く関係ないです」と語る。実際、ミシュランのフロラン・メネゴーCEOも海外メディアに対して、ショーアップのためにデグラデーション(性能劣化)するタイヤを求めるF1の考えはミシュランの哲学に反すると話しているため、F1参戦の可能性は低そうに思える。

 有終の美を飾るべく、GT500での当面のラストシーズンに臨むミシュランだが、“休止”という文言にもあるように、今後のシリーズの情勢次第では復帰も可能性も排除していない。また“GT500休止”とあるように、GT300での活動は来季以降も継続されるという。

戎井健一郎

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