「本日は、いくつか皆さんにお伝えしたいことがあり、ここ(会見場)に来ました」 “ラファ・ナダルアカデミー”で開いた会見の冒頭で、ナダルはカメラの向こうのファンに向けて、そう告げた。 地元マヨルカ島から海を隔てたローマでは、イタリア国際が終盤に差し掛かかる5月18日の午後。全仏オープンの開幕を、9日後に控えた日のことだった。 「全豪オープンで負った臀部のケガの回復が、かんばしくないということ。毎日、回復に努めてきましたが、ローランギャロス(全仏オープン)に出られるレベルには達しませんでした」 過去14度トロフィーを掲げ、彼自身が「最も大切な大会」と繰り返し明言してきた、全仏オープンからの欠場――。それが、ナダルが「最初に告げたかったこと」だった。 もっともこの発表そのものは、残念ではあるが、驚きではない。恐らくは、世界中の多くのファンが胸を痛めたのは、続くナダルの言葉を聞いた時だろう。 「しばらくはテニスから離れることになる。いつ練習を再開するかはわからない」 「(パリ)オリンピックには出たいと思っている。2024年は恐らく、僕がプロツアーに出る最後の年になるだろう。自分にとって大切な全ての大会に出場し、皆さんに笑顔でさよならと言うのが、今の自分のモチベーション」 果たして、いつコートに戻るのか――? それについては「未来を予想するのは好きではない」とし、希望的観測を口にすることもない。ただ「今年の終盤に戻ってくるのが目標だ。来年、コートに立つことを楽しんでキャリアを終えたい。その希望は捨てたくない」と言った。 ナダルが自身の現状と決意を明かしたその時、イタリア国際では、ダニール・メドベージェフが準々決勝を戦っていた。 その一戦に快勝したメドベージェフは、試合後の会見で「ナダルの全仏欠場は、あなたにとって良いニュースか?」と問われると、「非常に悪いニュースだよ」と即答する。 「誰かがケガをして欠場するなんていうニュースは、聞きたいものではない。それがラファのような選手なら、なおのことだ」 さらにメドベージェフは、こうも続ける。 「悲しいニュースだけれど、彼が復帰を目指していると聞いて、うれしくも思っている。誰もが、彼がコートに立つ姿を、もう一度見たいと思っているはずだ。僕としては、ラファが止める決断を下す日が、もう数年先であることを願っている」 もう一人、イタリア国際の準決勝進出者の中で、ナダルの発表を複雑な気持ちで聞いた選手がいる。ナダルを「少年時代からの憧れ」と仰ぎ見、現在はラファ・ナダルアカデミーを拠点とする、キャスパー・ルードだ。 「彼はあらゆる手をつくし、それでも大きな痛みを抱え、ローランギャロスに出るのは不可能と判断したのだと思う」 「数カ月の休みを取るというのは、正しい判断だと思う。来年が最後の年になるだろうと言っていたそうだけれど、未来は誰にもわからないさ。僕が望むのは、彼が望む形でキャリアを終えること。いかに偉大な選手でも、キャリアを終える日の訪れは避けられない。去年はロジャー(・フェデラー)が引退した。ラファが、それに続く“レジェンド”になるのは、ありえる話しだと思う」。 抑制した口調に万感を込めるルードは、多くのテニスファンの願いを代弁するかのように、こう続けた。 「来年のローマやローランギャロスに、きっとラファはいると思う。それが彼の願いだろうし、その願いが満たされることが、僕の願いなんだ」 現地取材・文●内田暁 文章导航 【Bリーグ】琉球が2年連続ファイナル進出へ先勝 河村勇輝擁する横浜BCを下す ルバキナが今季2度目の「WTA1000」制覇も笑顔なし、相手途中棄権でのV「残念」<女子テニス>